冠帽を呼びかけるポスター
(昭和27年)



鳥打ち帽子(ハンチング)

第1項 全般の状況

● 中折やパナマの衰退

 戦後の商品事情において特筆しなければならないのは、加速する無帽現象と立ち向かわなければならない業界の動向です。

 戦時中は国民帽や戦闘帽一色でした。従来の人気商品である中折帽子やパナマ帽子と決別しての戦闘帽でした。戦後、戦闘帽から開放されたものの、今度はその反動としての帽子離れ現象が起きました。業者は厳しい帽子離れ現象と向かい合うことから戦後のスタートを切ったということになります。一連の経緯については、第1節第1項の業界復興の経緯と第2項の帽子業界内の状況に述べたとおりです。28年頃の無帽率は73%と高率を示しています。戦前の帽子黄金時代には100%近い冠帽率、すなわち、無帽率は0%に近かったわけで、まさに隔世の感がいたします。

 業界内の戦後の混乱は、23〜24年頃から徐々に治まり、再興の機運を醸し始めましたが、一般の世相は27年のメーデー事件など、混乱は尾を引いていました。

● 鳥打ち帽子(ハンチング)安定商品へ先鞭をつける

 帽子では鳥打ち帽子が先鞭をつけて売れ行き好調の気配があり、安定商品の座を確保しつつありました。ほかにパナマ、ミルキー、登山、スキー帽などが明るい傾向を見せ始めました。目立って伸びてきたのは子供帽子で、婦人帽がデパートの復活で新しい動きを見せ始めました。

 昭和28年のヒット映画「君の名は」の影響で、ヒロインの氏家真知子が被っていた帽子が「マチコ帽」と呼ばれて大ヒットし、婦人帽子の売れ行きを刺激しました。

 戦後の業界は、ミルキーハットやポーラーキャップなど、新製品を出して人気を博しました。



帽子の起源と文字

現代のファッション性豊かな帽子は、明治四年(1971)の断髪令以後に確かな萌芽を見ましたが、帽子の機能性や実用性ということになりますと、人間の歴史と共に始まったと言ってよいのかもしれません。
(1)耐寒・耐暑・危険防止等の実用性

狩猟や農作業の日除け、雨除けのために被った頭巾や笠などが時代の進歩と共にパナマ帽、カンカン帽、登山帽、野球帽、ヘルメット等に進化してきました。
(2)権威や身分の象徴として冠(かんむり)や烏帽子

王家や武士などが権威の象徴として王冠や烏帽子を被りましたが、これは軍帽・警察官等の制帽などにその名残があります。現代の違い、かつては学生はエリート集団で、角帽などの学生帽もある意味で自己顕示の被り物でした。
(3)戦争の道具としての兜(かぶと)

戦(いくさ)の際に鎧兜(よろいかぶと)を身に付けるのは古今東西同じです。戦争の際の鉄兜やヘルメットも、同じ目的で現代に受け継がれています。
ところで、帽子という漢字は単純明瞭な組み合わせでつくられています。日<太陽>の下に目があり、それを巾<布>が遮っているという表意文字です。扇子、銚子、菓子などの使い方と同じです。

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